ナルシス ノワール






「あなたは自分で何をしているのか分かっているのですか」



「別れなさい。あなたたちの恋は‥‥決して実ることはないのですよ」






ねぇ白梟、そんなこと自分が一番分かってたんだよ。



だけど
俺はあいつと離れるつもりはなかった。










少なくとも






俺は











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タイチョーはさ


ずるいよね







『ねぇ、タイチョー、俺のこと好き?』


『なっ‥‥なんだいきなりっっ』


『なんかさあ、俺ばっかりタイチョーに好きって言ってるからさ。たまには言って欲しいなぁと思って』


『べっ、別にお、おおお前のことなんかすっ、すす好きじゃないっ!変なこと言うな!!』







こういうことを口にすると、顔は真っ赤にしてるのに、意地張って言ってくれなかった。
そんな所も可愛かったし、そんなタイチョーも好きだったけど‥‥





なんで





こんな時にだけ






「‥‥なんだ、こんな処に呼び出して。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥タイチョー。」

「だからなん」

「死んでくれない?」



剣を抜く俺に目を見開き、驚いた表情で見つめる。



「‥‥‥何を」

「アンタ、婚約したんだってね。白梟から聞いた。悪いけど、おめでとう、なんて言ってあげないよ。俺はアンタを手放す気なんかないから。」

「ち、違うっ!!あれは白梟殿が勝手に‥‥」

「別に言い訳なんかいいよ。何を言ったってアンタは俺のモノだ。誰かに盗られるくらいなら‥‥俺が殺してあげる」



構えた剣先をペロリと舐めて笑みを零す。





‥‥いつか
こんな日が来ると思ってたよ。


アンタは、人一倍周りに気を遣うから。

相手のため、救世主の血筋のためと簡単に自分の気持ちを投げ捨てるから。



だからそんな時が来たらと決めていた


その時は







俺の手でアンタを殺す



俺以外の誰かに盗られるくらいなら‥‥‥俺は、その前にアンタの最期をもらうと





「‥‥‥本気で言っているのか?」

「はは、当たり前じゃない。冗談でも言うけど、これは本気」




愛する人に剣を向けているというのに、なぜか笑いが込み上げてくる。








これで俺のモノにできる
誰のモノにもなることことなく




言い様のない独占欲と支配欲
それらが満たされていく感覚。



「はははっ、楽しみー」

「‥‥‥それで、お前は満足するんだな?」


「はは、当たり前じゃん。アンタを俺のモノにできるんだも‥‥‥」









ざくり








相手の手が俺の手に重なった感触と同時に残った嫌な感覚




先程よりも距離が縮まっている愛しい人




その人の紅黒く染まった腹部




そして



貫通している鋭い鉄の塊



「‥‥タ‥‥‥イチョー‥‥‥‥‥‥」

「くっ‥‥こ、これ‥で‥‥‥まんぞ‥‥く、か」


地に崩れていく愛しい人

その姿をただ見つめる自分





「な、に‥してんの‥‥?なんで‥自分から‥‥‥」

「おま、えが‥‥‥のぞんだ‥こ‥とだろう、が‥‥ばかもの」



広がっていく紅い水溜まり

徐々に色がなくなる愛しい人の顔




自分はこれを望んでいたはずなのに

自分のモノにできると満たされるはずなのに






目の前にいる愛しい人が
いなくなってしまう恐怖が


身体の奥からこみ上げる



「ち、違う‥‥俺が望んだのは」





こんなんじゃ




のぞんだのは




こんなんじゃ





「い、いか‥‥お‥れ、は‥こん、やく‥なんか、して、いな、い‥‥‥‥おれ、は‥‥―――――」














動かない愛しい人






二度と






「‥‥‥タイチョー?」





動かない





「ねぇ、タイチョーってば‥‥なんで」





動かない





「今更‥‥そんなのずるいよ」





動かない





「起きてよ‥‥‥ねぇ、タイチョー」






動かない








動かない

動かない
動かない












『おれ、は‥‥お、まえ‥‥‥をず、と‥‥す、き‥‥だか‥ら』















二度と











「あ、あぁ‥‥‥あ‥‥ああああアあぁぁァーーッ!」







そして








おれは








コ  ワ レ  タ















「たいちょ‥たいちょう‥‥‥たいちょう」





ふらふらと





右手には剣を
左手には愛しい人を抱えて






湖へ








愛しい人の今はもう冷たい唇にそっと重ねて





「待っててね」









深い深い底へと





ふたりで

















マッテテ

オレモイマイクヨ