なにげない日々さえ俺には大切な時間





だからできるだけ




君と一緒にいたいんだ










最期まで










「ねぇ」

「ん?」

「きょうはけんさないの?」

「なおが来る前に終わったんだよ」


少し薬のにおいがするまっ白なベットから自由のきかない身体で少年の頭をくしゃりと撫でる。


「そっかー」


その手をとても気持ちよさそうにする顔は、俺のお気に入りだった。


俺はこの病院に長い間入院している。
家に戻れることもあったけど、すぐ逆戻り

そんな生活を送っていた。

小さい頃は学校へ行って友達と一緒に遊んだり、勉強もしたい。
そんなふうに思ったりしたけど。‥‥でも、もう無理なのもわかっていたんだ。


自分の身体だから


悲鳴がきこえる


終わりの音が近づいていてくる


それから


俺はずっと立ち止まったままで

終わりの音ははだんだん大きくなってきているのもわかる。



もうすぐなのかな、と人事のように感じていた俺は、なにもかもを諦めてたのかもしれない。

自分の運命も

希望も



そんなときだった。



「お兄ちゃん、これあげる」



なんの前触れもなくひょっこりと現れた少年は、小さな折り鶴を俺に渡して
にっこりと笑いかけて、すぐいなくなる

次の日も、また次の日も。
小さな折り鶴が


あか


あお


きいろ


きみどり


色とりどりの鶴が増えていく。

看護婦の話ではその少年は、近くの孤児院の子らしい。
なぜ、彼が俺のところに来るのかはわからないけど、毎日のように来る少年を俺はいつしか心待ちにしていて



「お兄ちゃん」



その声が

その言葉がを聞いていたい

顔を見ていたい




君にあいたい



俺は病気になって初めて


「‥‥‥名前は?」

「‥‥なお」


この少年のために
もっと生きていたいと思った。


だけど


俺の身体はもう‥‥だめみたいだから


音が、すぐそこまで来てるのがわかってしまったから。


「ねえ、なお」

「なあに?」

「お願いがあるんだけど」



ほとんど寝たきりの身体を起こし、髪をなでていた手で少年の小さくてやわらかい手をにぎる。
まるで、この少年の感覚を確認するかのように


「‥‥ずっと、俺のそばにいてくれないかな」


少年はきょとんとした顔を、にっこりとほほえませて手をにぎり返してきた。


「いいよー。だって、お兄ちゃんのこと大好きだもん」

「ずっといっしょにいるー」


そう言いながら俺に抱き付いてくる。

本当は君とずっといたい
君の成長する姿をこの目でみていたい

でも、それはできないから


「‥‥‥‥‥ありがとう、なお」

君を離さない、と抱きしめる
その姿を

ぬくもりを

ふわりと香る匂いを

覚えるかのように。

「俺も‥‥すきだ」





最期まで





君と一緒に